【-第40回-より良い世界にしたいから、根深い闇に切り込むよ。<前編>】

 チャパリータです。我々ショップ店員、ひいては卓球業界に従事する者として、すべての卓球愛好家の皆さんからのご意見・ご質問に真摯に向き合い、ときには手取り足取りでお助けし、互いにより良い未来へと共に歩んでいく…のが本意です。しかし、そんな間柄を引き裂かんばかりに横たわる闇、“禁忌の質問”について今宵は深く切り込みます。


禁忌の質問・その1「相性」
 相性。それは抽象的でありつつ、どこか説得力に溢れ魅力ある魔法の言葉。この二文字に踊らされている人も多いのではと感じております。単刀直入に言いましょう。「このラバーとこのラケット、相性は良いですか?」「このラケットに相性の良いラバーは何ですか?」こうした問いかけが、我々ショップ店員を常に苦しめています。


 説明しますと、相性には裏(ワケ)が存在します。ラバーとラケットの持つ性能を互いに高め合う組み合わせ、もしくは、互いのウィークポイントを補い合う組み合わせ等々。商品紹介動画や紙面上で見られる“相性”の言葉の裏には、そういった理由あっての結果です。そしてなにより重要なのが、それらはあくまで“ラバーとラケット、用具の部分だけ!”を説明しているものだということを、イの一番に解っていただきたいのです。


 「そのラバーとラケットの相性が良い理由は分かった。問題は、それが自分にとって相性の良い組み合わせか、否か?」常にこの視点を大切にしてほしいのです。


 我々がひとつの組み合わせを提示し、それを手にするプレーヤーは千差万別。老若男女に戦型、キャリアと条件もさまざま。仮に攻撃性能の高さで相性の良い組み合わせでも、守備型の選手が持つのであれば、相性は良くないですよっていう話です(ただし、「反撃や一発の威力を身上とする守備型の人」にとっては、相性が良いという判断もできます)。


 まとめますと、“そのラバーとラケットの相性が良いかどうかは、最終的にあなたのプレー属性、レベル、考え方次第でいかようにも変わるんだヨ!”です。問われたラバーとラケットの相性は、当人からの十分なヒアリングを行わない限り、到底答えられるものではありません。お客様情報が一切ない状況で“相性は?”と問われても、我々は答える術を持っていません。もしスラスラと答えられる店員がいたとしたら? 間違いなくテキトー、いい加減な人間です。もはや小馬鹿にしているだけかもしれません。


 大切なお客様から頂く質問だから…。これこそが我々ショップ店員をこの禁忌と直接向き合うことを避けさせてきた理由でありましょう。的外れかもしれないが、無下にはできない。いわば「店員の本能」ともいうべき正義感から拒んできたからに他なりません。しかし、直視することなく現状を放置しておくことこそ無礼千万だと私は思うのです。荒野に苗を植えるかの如く、地道にコツコツと繰り返し説き続けること。そして、業界を変えられる“最大勢力”は、消費者である皆様方です。しかしそれは物事に対する深い造詣と理解があればこそ。ちょっぴり苦い現実を直視できなければ、お互いにとって良い未来像は描けません。


 少なくとも私は、この手の質問に辟易し、憔悴しています。両者を隔てる深く仄暗い、哀れみの感情。コレって相性じゃなくて“哀憔”じゃん! (いま思い付きました)。



 相性という言葉の持つ汎用性、都合の良さは“思考停止”と紙一重。現状のような誤解と失望ばかりを生む元凶であるなら、我々業界人は二度と口にするべきではないのでは? 私はそう強く感じているのです。