【-第51回-なぜハマる?“卓人脳”の謎と改善点】


 『卓人脳』。それは卓人が陥る、思考停止状態のオツムを指す。この状態になったら最後、奇々怪々な言動で周囲を恐怖と混沌に巻き込んでいることも気付かず、さらには自分が何を目的にしているのかも定まらぬまま、出口の見えない暗闇はたまた白昼夢を四六時中さまようのです。そんな彼らのファンタジスタっぷりをあぶり出す合言葉が…「相性」。この言葉を耳にしたら、すみやかに遠くに逃げてください。急いで!


 とまぁ盛大に皮肉ったところで、なぜそうなってしまうのか? を少し考えてみましょう。まず思い浮かぶのが、誰もがお手軽に楽しめる一方で“奥が深すぎる、難解を極める”という、卓球の本質ですね。始めてみたはいいものの、レベルアップに必要な要素があまりにも多い。つらい。いつしか現実逃避とばかりにロジカルな理解を諦めた結果、「雰囲気に流される」「(周りの愛好家に合わせて)お互い雰囲気で会話する」ことが当たり前となり、ついには文化となる。ん~…、当たらずとも遠からじといった感じでしょうか…?


 なぜこんなお題を選んだのか? それは店頭での接客時、わりと頻繁に痛快な場面に出くわす実態を知って欲しいからです。シチュエーションは決まって「経験者と、付き合わされて来た未経験者との会話」。以下、私の心の声と共にお送りいたします。


経)「硬さの種類があってね、硬い方が飛ぶんだよ」
未)「力が弱いと軟らかい方が跳ねそうだけど」
私)(おぉ…、柔軟かつ正しい思考…)


経)「あの~、このラバーの寿命ってどれくらいですかぁ?」
私)(う、卓人脳が我に牙を向けてきた…!)
未)「いやいや、使用頻度や環境次第でいくらでも変わるだろww ゴムでしょコレ?」
私)(!? コイツ、明らかに味方…)


経)「コレは○○、こっちは△△。弾みが全然違うんだよね~。」
未)「(2枚を玉突きして)違うか? ほとんど一緒のような…」
私)(ご明答。 その2枚、実は同じ工場で作られたほぼ同じ性能のラバーなのだ…)


経)「ラケットとラバーの組み合わせってのはさ、相性が超大事なんだよ」
未)「へー、相性とかあるんだ?」
経)「あるに決まってんだろ!! 卓球舐めてんの? 飛ばすよ!?」
未)「ラケットとラバー、それぞれ性能が異なる製品が複数あるって話でしょ?」
経)「う、うん…。ま、まぁな…」
未)「じゃあレベルに見合ったラケットとラバーをそれぞれ選ぶだけじゃね?」
私)(…接客はキミに任せた!)


 いかがでしょう? こうした経験者と未経験者のやりとり、10:0で未経験者の思考が「正しい」のです。未経験者って知識がないかわりに“こうあって欲しい”という雑念もゼロなので、与えられた情報をフラットに判断できるんですよね。一方の卓球経験者は…悲しいほどにコレができない。あたかも“文化”の中で築かれたふんわりワードの数々(相性、寿命、飛ぶetc)を駆使することが経験者のマナーでもあるかのように。


 そんな卓人脳に侵されてしまった人は、今一度、知識だけでも初心者に立ち返ってみると良いでしょう。きっと正しい物の見方に気付くはずです。「いや自分は大丈夫だし」と、本当に言い切れますか…?